EvameEvame
AboutPrivacy PolicyTerms of Service
56
0
0
View
Like
Share

Comments

Say Hello!

別離

NDC911
E
evame12/27/2024

author: 中原 中也

1

さよなら、さよなら!

  いろいろお世話になりました

  いろいろお世話になりましたねえ

  いろいろお世話になりました

さよなら、さよなら!

  こんなに良いお天気の日に

  お別れしてゆくのかと思ふとほんとに辛い

  こんなに良いお天気の日に

さよなら、さよなら!

  僕、午睡《ひるね》の夢から覚めてみると

  みなさん家を空《あ》けておいでだつた

  あの時を妙に思ひ出します

さよなら、さよなら!

  そして明日《あした》の今頃は

  長の年月見馴れてる

  故郷の土をば見てゐるのです

さよなら、さよなら!

  あなたはそんなにパラソルを振る

  僕にはあんまり眩《まぶ》しいのです

  あなたはそんなにパラソルを振る

さよなら、さよなら!

さよなら、さよなら!

2

 僕、午睡から覚めてみると、

みなさん、家を空けてをられた

 あの時を、妙に、思ひ出します

 日向ぼつこをしながらに、

爪《つめ》摘んだ時のことも思ひ出します、

 みんな、みんな、思ひ出します

芝庭のことも、思ひ出します

 薄い陽の、物音のない昼下り

あの日、栗を食べたことも、思ひ出します

干された飯櫃《おひつ》がよく乾き

裏山に、烏が呑気に啼いてゐた

あゝ、あのときのこと、あのときのこと……

 僕はなんでも思ひ出します

僕はなんでも思ひ出します

  でも、わけて思ひ出すことは

わけても思ひ出すことは……

――いいえ、もうもう云へません

決して、それは、云はないでせう

3

忘れがたない、虹《にじ》と花

  忘れがたない、虹と花

  虹と花、虹と花

どこにまぎれてゆくのやら

  どこにまぎれてゆくのやら

  (そんなこと、考へるの馬鹿)

その手、その脣《くち》、その唇《くちびる》の、

  いつかは、消えてゆくでせう

  (霙《みぞれ》とおんなじことですよ)

あなたは下を、向いてゐる

  向いてゐる、向いてゐる

  さも殊勝らしく向いてゐる

いいえ、かういつたからといつて

  なにも、怒《おこ》つてゐるわけではないのです、

  怒つてゐるわけではないのです

忘れがたない虹と花、

  虹と花、虹と花、

  (霙とおんなじことですよ)

4

 何か、僕に、食べさして下さい。

何か、僕に、食べさして下さい。

  きんとんでもよい、何でもよい、

  何か、僕に食べさして下さい!

いいえ、これは、僕の無理だ、

    こんなに、野道を歩いてゐながら

    野道に、食物《たべもの》、ありはしない。

    ありません、ありはしません!

5

向ふに、水車が、見えてゐます、

  苔《こけ》むした、小屋の傍、

ではもう、此処からお帰りなさい、お帰りなさい

  僕は一人で、行けます、行けます、

僕は、何を云つてるのでせう

  いいえ、僕とて文明人らしく

もつと、他《ほか》の話も、すれば出来た

  いいえ、やつぱり、出来ません出来ません。

(一九三四・一一・一三)

底本:「中原中也詩集」角川文庫、角川書店

   1968(昭和43)年12月10日改版初版発行

   1973(昭和48)年8月30日改版13版発行

入力:ゆうき

校正:木浦

2013年6月19日作成

青空文庫作成ファイル:

このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。

●表記について

このファイルは W3C 勧告 XHTML1.1 にそった形式で作成されています。

●図書カード